「百段階段」とは通称で、ホテル雅叙園東京の前身である目黒雅叙園3号館にあたり、1935(昭和10)年に建てられた当館で現存する唯一の木造建築です。食事を愉しみ、晴れやかな宴が行われた7部屋を、99段の長い階段廊下が繋いでいます。階段は厚さ約5cmのケヤキ板を使用。階段で結ばれた各部屋はそれぞれ趣向が異なり、各部屋の天井や欄間には、当時屈指の著名な画家達が創り上げた美の世界が描かれています。
“昭和の竜宮城”と呼ばれた当時の目黒雅叙園の建物の特徴は、装飾の破格な豪華さにあります。最近の研究によると、その豪華な装飾は桃山風、更には日光東照宮の系列、あるいは歌舞伎などに見られる江戸文化に属するものとも言え、なかでも「百段階段」はその装飾の美しさから見ても、伝統的な美意識の最高到達点を示すものとされています。2009(平成21)年3月、東京都の有形文化財に指定されました。
室内はすべて純金箔、純金泥、純金砂子で仕上げられ、彩色木彫と日本画に囲まれた美しさは息を呑むほどの絢爛豪華さです。床柱は左右ともに巨大な檜で、精巧な彫刻 (中国の漁樵問答の一場面)が施されています。格天井には菊池華秋原図の四季草花図、欄間には尾竹竹坡原図の五節句が極彩色に浮彫されています。
美人画の大家、鏑木清方が愛着をもって造った落ち着いた静かな茶室風の室です。特に奥の間の床柱は径一尺五寸の北山杉の天然総絞丸太でこのような逸材は今日、市場でもなかなか見出せないものです。廻り廊下の北山丸太を扱った化粧軒、障子建具、組子など、細心の造りです。扇面形杉柾板に四季草花、欄間の四季風俗美人画ともに 清方の筆です。