上出長右衛門窯を代表する絵柄のひとつ「笛吹」が気持ちよく笛を吹いていると、それを邪魔するかのように突然ピアノやギターなどが現れて音を搔き鳴らします。はじめは困り顔の笛吹でしたが、そのうち怒り出します。磁器に絵付けされた青い染付を表現した色合いと、移りゆく風景、そして大きな湯呑に映し出された笛吹の表情にご注目ください。
「笛を吹くその男が心に映し出す美しい風景には、目新しい異国の文化や音楽も必要ありません。自然の移ろいを愛する男に「月に叢雲花に風」は皮肉な例えだが、求めるものは自分の思う通りにいかないものです。」 上出長右衛門窯 上出惠悟
上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま)
明治十二年、石川県能美郡寺井村(現石川県能美市寺井町)にて創業。
一貫生産にこだわり昔ながらの手仕事で割烹食器から茶陶まで一点一線丹誠込めて作り続けています。深い藍の染付と彩り鮮やかな上絵付が特徴です。
笛吹は中国明時代末(十七世紀前期)の古染付の絵柄のひとつで、上出長右衛門窯では70年程描き続けています。笛を吹く人物を描いた絵柄に特別さはないかもしれませんが、肩肘を張らない不思議な魅力がお茶の器として、寛ぎあるお茶の時間に相乗効果を生んでいます。近年は縦笛をトランペットやサックスなど身近な楽器に持たせ変えたものや、スケボーやDJなどに興じるものなど遊び心あふれる新しい笛吹が登場し、時代を越えて若い世代にも笛吹が受け入れられています。