祭壇の前でカメラを向けられると、
気恥ずかしそうに微笑むふたり。
着慣れないドレスとモーニングに
少しだけ戸惑いながら、
幸せそうにお互いの手を握っている。
その手に深く刻まれたしわが、
過ごしてきた月日の長さと苦労を
物語っていた。
最初にそのふたりを
ブライダルサロンで迎えた時のことが
今でも昨日のことのように思い出される。
70代の後半を迎えた夫婦。
最初の一言を、旦那様は
なぜか申し訳なさそうに言った。
「妻に、ウエディングドレスを
着せてやりたいのです」
ふたりは結婚50周年の金婚式を迎えていた。
戦後の混乱期にお見合いで結ばれたが
結婚式も満足に挙げられず、
必死に働き、子どもを育て、
気が付けば50年の月日が流れていた。
旦那様はそのことを
“50年間の心残り”と話してくれた。
衣裳に着替え、カメラの前に立つふたり。
奥様の顔を見つめることができない旦那様。
それでも一言、
「今まで苦労かけてすまなかった」
そうつぶやくと、
純白のドレスに身を包んだ
50年目の花嫁は答えた。
「おとうさん、
ドレスを着せてくれてありがとう。
私はとっても幸せです」