「娘には内緒で、
色打掛を着せてあげてほしい」
それは、結婚式を控えた
花嫁の母からの電話だった。
高校を出るとすぐに上京し、
大学に通い
就職活動をして社会人になった花嫁。
自立心が強く、
何でも自分で決めることができた。
結婚する事も結婚式場選びも、
予算の工面もぬかりない。
「お母さんは口出ししないで!
私ちゃんとやってるから!」
それが彼女の母への口癖だった。
それでも母には分かっていた。
娘がいつも家族に心配をかけないように
無理して頑張っていることを。
実は予算の都合で、披露宴で色打掛を着るのを
あきらめてしまったことを。
そして絶対に
「助けてほしい」と言えないことを。
自分が助けると言えば、
また意地を張ることも分かっていた。
当日、花嫁が披露宴の途中で化粧直しに立つと
そこには夢にまで見た色打掛があった。
そしてすぐにわかった。
母が準備してくれたものだと。
母への感謝の気持ちと申し訳なさが、
堰を切ったように流れ出した。
大粒の涙となって。
色打掛を着てお色直しの入場をする花嫁。
その顔はとても優しく、
おだやかな微笑みに満ちていた。